園長コラム 教育は愛なり 子は天才にして教師は凡才なり

 新緑のまぶしい過ごしやすい季節になりました。太陽の子ども達が入園、進級という人生の節目を一人ひとりが自分のペースで歩き始めました。お母さんがいない寂しさをどのように埋めていくのか。周りを見ればたくさんの大人はいるけれど、なんて声をかけたら助けてくれるのか。旧担任は目の前にいるけど、もう自分の先生ではない。以前のように胸にとびこんでいかれない自分がいる。何でこんなにうじゃうじゃ子どもがいるんだろう。私は静かな所にいたいな・・・。等々様々な心模様が伺えます。でも着実に子ども達は保護者の見えない所で大きくなろうとしています。

 太陽幼稚園は創立73年間、私学助成で園を運営してきました。今年度より、新制度の施設型給付による新しい出発をいたしました。制度は変わりますが、創設の精神はしっかり心にとめながら、「原点回帰」の年にしたいと思っています。私立幼稚園という誇りと創設者がなぜ「太陽幼稚園」を作ろうと思ったかを忘れず、「子どものための幼稚園」作りを一貫して守り続けます。

 創設者である塩原三男は73年前、東京の焼け野原で戦争孤児達と焚き火をしながら語り合いました。そこで「自分の師は子どもだ」と実感をします。親のない子ども達の心と瞳の輝きに感銘を受けます。親がいなくてもどん底にいる自分達はこれ以上下はない。夢や希望に満ちた将来があると信じて生きている子ども達と出会い、この子達のために「幼稚園を作ろう」と誓います。無一文でしたが、情熱だけは持っていた、と聞いています。この塩原三男の勢い、情熱が園設立資金提供者の心を打ち、その方達の偉大な援助のおかげで、太陽幼稚園が1950年に産声を上げます。私たち教職員は常にこの創設者の創立の精神を誇りとし、日々子ども達と関わっています。

 時代は目まぐるしく変わってきます。現在は効率的に生きるために、そして将来困らない生活を送るためには、子ども達に必要なことは何かばかりに注目しがちです。大人の幸を願う前に、夢を持って輝く人生を夢みている子ども達には今何が必要なのでしょうか。今習得しなくても後回しでも十分習得できることはたくさんあります。子どもは子ども時代に熱い情熱と夢を持って、大好きな仲間と時間を忘れて遊ぶことが大切ではないかと思います。そしてありのままの子どもの姿を受け止める大人が近くにいて「大丈夫、それでいいんだよ」とただただくり返し伝えてあげる。安心と愛されているという実感で子ども達は生きていかれます。児童精神科医の佐々木正美先生は「子どもは親のいう通りには育たない。育てたように子は育つ」そして「生きているだけでいい」「我が子に望むことがあるとしたら、『親より先に死なない』というくらいです」とおっしゃっています。

 当園の前理事長は親より先に59歳で亡くなりました。母親は創設者の妻です。苦労を共にして幼稚園を作り、息子に園を任せましたが、自分より先に亡くなるという、どうしようもない辛い体験をしました。息子が書いた「お母さん産んでくれてありがとう」という白い紙切れを冷蔵庫の扉に貼り、毎日眺めていました。

 愛しい我が子にああなってほしい、こうしてほしい、という気持ちを持つのも当たり前でしょう。でも、時々は子ども達の顔色も見ながら「いいかげん」を保つことを願っています。毎日子育てありがとうございます。  令和6年度も太陽幼稚園に関わるすべての人を幸にする努力を惜しみません。

      創立当初の塩原三男と妻